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笹倉及介の日記ブログ

「スゴ本」という言葉のモヤモヤ

スゴ本という言葉は「凄い本」という意味で、ネット上でここ1年以内に使われ始めた言葉だと思うが、僕はあまり好きじゃない。例えば「名著」「名作」「傑作」「面白い本」なんて表現を使われても全く問題ないが、「スゴ本」だけはなんだか不愉快。「凄い」は本に対して使う言葉ではないと思う。
「凄い」を辞書で引いてみる。

すご・い 2 【▼凄い】
(形)[文]ク すご・し
(1)ぞっとするほど恐ろしく思う。たいそう気味が悪い。
「―・い目つきでにらまれる」「―・い絶壁」
(2)常識では考えられないほどの能力・力をもっている。並はずれている。
「―・い怪力」「―・い根性」
(3)恐ろしいほどすぐれている。ぞっとするほどすばらしい。
「―・い性能の車」「―・い腕前」「―・い美人」
(4)程度がはなはだしい。
「デパートは―・いこみようだ」
→すごく(凄く)
(5)ひどくものさびしい。ぞっとするほど荒涼としている。
「かれがれなる虫の音に松風―・く吹きあはせて/源氏(賢木)」「古畑の岨(そば)の立つ木にゐる鳩の友呼ぶ声の―・き夕暮/新古今(雑中)」
(6)ぞっと身にしみて寒気を感じるようだ。鬼気迫るようなおそろしさだ。
「あたりさえ―・きに、板屋のかたはらに堂建てて行へる尼の住まひ/源氏(夕顔)」
〔心に強い衝撃を受けて、ぞっと身にしみるさまの意が原義。平安時代から見える語で、良い意味でも悪い意味でも用いられた。近代以降、心理的圧迫感を伴わない用法が生じた〕
[派生] ――さ(名)――み(名)

三省堂提供「大辞林 第二版」より

ここで使われているのは(2)か(3)の意味だろう。
何が良くないか。

説明が足りてない

この言葉には、ただ安直に凄い凄いと言っているだけで、何が凄いのかを説明していないような印象を持ってしまう。近頃の若者言葉である「ヤバイ」と同じような感じで使われている気がする。「どういうところが凄い本」「凄く○○な本」と言って欲しい。

二択で決めて良い問題か?

「スゴ本」には凄いか凄くないかだけで決めているような印象を持つ。そういう風に単純に決めても良いものか?と思ったりする。

傲慢

一読者に過ぎない人間が「凄い本」と断定してしまうのはあまりに傲慢であると思う。とっても上から目線。僕が著者なら「何様のつもりだ」と怒鳴ってやりたい。そして「スゴ本」という表現は、「まだ読んでいないけれど凄い」というような印象があるのだ。もし「凄かった本」という表現だったら、「ああ、この人はこの本を読んで凄いと思ったのだろうなあ」という印象があるけれど、「スゴ本」にはそれがない。

凄くない本なんて無い

凄くない本なんて無い。たいていの場合において、スゴ本スゴ本言っている人間よりも、スゴ本と言われなかったけれどもその本を書いた人のほうが断然凄い。それに、凄くないと思ったのならば、それは読んだ側の感じ方の問題であると思う。全ての本はどこかしらに面白いところがある。



以上の理由からスゴ本という言葉は僕を不愉快にする。とにかく「スゴ本」という言葉の印象が悪い。「面白い本」という言葉よりも尖っていて攻撃的で独裁者から読めと命令されているような言葉に感じるのだ。言葉は流動するものだから、どういう使われ方をしようと行間を読めば言いたいことはわかるので、スゴ本という言葉を使うなってことではないのだけれど。