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笹倉及介の日記ブログ

天冥の標6 宿怨 PART 2

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)


今回もすごく面白かった。毎回わくわくするようなおもしろさでこの熱をどう伝えれば良いのかわからないのがもどかしい。
一巻からリアルタイムで読んでいた自分をほめたたえたい。賞賛したい。よくぞ読んでいた。よくぞ最初の一冊を手に取った。すばらしい俺。さすがだ自分。

このシリーズはもう8冊目となる。1話に複数冊費やす話もあるから、今は6話の途中だ。全10巻くらい、と最初の話の後書きにあったけれど、本当に10冊で終わるのだろうか?とちょっと心配もしつつ、でも途中で新作が出るのが止まっているわけではなくて、継続的に調子よく新作が出ている。だから続きが楽しみでしょうがない。これが完結するまでは死ねない、と思うシリーズだ。

巻末に年表がついている。これを読むと(年表を読むだけで面白い)この小説のすごいところがわかると思う。21世紀から29世紀までかかれている。これからの人間がどうなって、最終的のどのようにして落ち着くのか、その歴史を小川一水は小説にしようとしている。歴史の要所要所が小説の1話になっている。既に最後は決まっているらしいが、全く最後が読めない。時系列は年表の一番最後の29世紀が第一巻の話なのだけれど、このままどう転がったらそうなる?という感じだ。そして、第一巻が小川一水が考えている歴史の最後では無いかも知れない。人間が地球を飛び出して、様々な勢力にわかれ、太陽系に散らばって、さらに太陽系の外からの知性体、それも普通の生物だけではなく、情報統合思念体のような、形にできない僕たちの想像もつかない知性なども出て来て、それぞれの勢力がそれぞれの主張やもくろみで動いていてえらいことになっている。
それぞれの勢力、《救世群》《恋人たち》《酸素いらず》いろいろ居すぎて覚えきれない。太陽系外の生命体や意識体もいる。それぞれが主人公という感じでだれが悪者でもないしほんとにそれぞれに感情移入してしまう。ひとつの宇宙の歴史を読み解けるなんて、なんて贅沢なのだろう。小説でこんなことができるなんて。


僕が夢中で読んでしまうのは、設定だとか、世界だとか、キャラクタの歴史の解説のようなところなのだ。断章と呼ばれるところかもしれない。この小説の設定は相当深いところまで寝られている。その設定を知るのがおもしろくて仕方がない。たとえば、「ダターのノルルスカイン」という登場人物は、集団でしか生きていけない地球におけるサンゴのような生物の集合体から偶然に生まれた意識体だ。この意識体の生まれてから今までの経緯をまとめて断章としてかかれた部分があったけれど、ここを読んだときは面白くて面白くてまばたきを忘れるかと思った。

今回は、最初の方に蜂のような社会をつくる太陽系外の生命体の解説が書かれているが、この最初の設定の説明でぐいぐい引き込まれた。この生命体は個にして全の意識を持っており、女王により完全に統制の取れた生物種だ。そして、この設定解説がのちのち、大きな意味を持つことになってくるとは思っていなかった。こういった設定解説をおもしろいおもしろいと貪るように、一字一句逃してなるものかと必死に理解しようとして読んでしまう。SFの設定の説明というのはなんておもしろいのだろうと思う。人間のやりとりはただのドラマであるが、SFの説明文は、SFならではの大規模な突拍子もない設定だったり、ふとした瞬間に今の世の中や自然現象を考え直してしまったりするのきっかけになり、とてもおもしろい。天冥の標ではその突拍子もない設定が複雑に絡みあり、一つの歴史になっているので読み応えがものすごいのだけれど、あっというまに頭の中に入ってしまう。夢中で読んでしまうので、覚えているのだろうと思う。全く飽きさせない小説である。

僕はこの小説を読み返したことはないのだけれど、それでも続きがどんどん読めてしまうのはなぜだろう。毎回新しい衝撃があるからだろうか。どんどん新しい風呂敷を広げるような感じで前の話の複線回収がされていないのだろうか? いや全然そうではないと思う。登場人物の名前に関連性があったり、複線がつながるということもある。一度しか読んでいない僕がそういうことを覚えているのだから、何度も読んだらもっとたくさんそういうところを発見できるに違いない。完結する前にもう一周ずつくらいできればなぁと思うけれど、どんどん次に読みたい本が現れるのでなかなか読めずにいる。