不完全世界の創造手
- 作者: 小川一水,こいでたく
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2008/12/19
- メディア: 新書
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物語は、自分で自分の複製を作ることが出来る、フォン・ノイマン・マシンを主人公が作ることから始まります。この機械がとある投資家(美少女)に注目され、世界を変えることになるのです!
ものつくりとは何ぞやとか、生産性、技術革新などに焦点を当てた小説だと思う。今の環境破壊を前提にしたものつくりや、世界的な経済格差なども取り上げていて、現実と地続きな小説です。僕もエンジニアの端くれとして背筋が伸びた内容だった。
僕も何かを創造したくなったし、誰かの役に立つため、今日よりも明日がいい世界であるために、何かをしたくなった。しかし、いまの僕になにが出来るかというと、一人では特になにも出来ないので、まじめに会社で働くことが一番効率の良い方法であるという結論に達する。ふつうの人は会社で働くことで、世界をちょっと良くしているのだと信じている。あとは、余暇で何かが出来ればいいのだけれど、あまり思いつかない。
それにしても、SF好きな人はフォン・ノイマンだとか、アラン・チューリングとか、アインシュタイン、ホーキング、シュレーディンガー、マクスウェルなどの科学者のことについて詳しくなりますね。たとえ理系じゃなくても結構聞いたことがある人が多いと思う。
この小説では、エンジニアを取り上げて、ものを作る楽しさとか、素晴らしさを描いていたのだけれど、エンジニアとしてはほとんど主人公しか出てこなかった。天才で、行動力もあって、堅い意志を持った好青年だった。それはそれでいいんだけれど、天才エンジニアというのは現実には存在しなくて、こつこつと、手当たり次第に試行錯誤を繰返す地道な作業をするのがエンジニアである。そういう会社にいるだけかもしれないが、天才だったら研究者になるものだと思っている。日本の企業には天才エンジニアなんて存在しないように思う。
小説に描かれる科学者とかエンジニアというのは、なんだかよく分からない神秘的な感とか、超能力みたいに冴えわたる頭脳みたいなものを持っていたりするけれど、実際のところ、どこにでもいる普通のおじさんなのだ。プロジェクトXのようなドキュメンタリーで大げさに取り上げられるようなエピソードなんて一つもないと思っている。そういう風に人類の技術は発展してきたわけではなくて、なんというか、もっとこう、地味な感じでのろのろと誰がやったか分からないような感じで発展してきたのだと思う。まあ、たまに一人の天才によって劇的に変わることもあるけれども。トランジスタとか、ハードディスクとかはそういう風にして一気に発展したところはある。
「なんだかよく分からないけれど、やれと言われたからちょっとばかし残業してやりました。もう帰っていいですか?」みたいな感じで今までよりもちょっとすごいものができる。そういうことの繰り返しで技術は発展していく。頑張ってるのは普通のおじさんで、そのおじさんがイノベーションを支えているのだ。
話がそれたけれど、とても面白かった小説であるというのは間違いないです。