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笹倉及介の日記ブログ

クワガタムシが語る生物多様性

クワガタムシが語る生物多様性 (創美社一般書)

クワガタムシが語る生物多様性 (創美社一般書)


一つ一つの例が身近にあるものなので、とてもわかりやすく、丁寧に書かれているので理解しやすい。生物多様性とは何なのかということが理解できたし、そもそもなぜ生態系を保護しなければならないのか?弱肉強食、自然淘汰が本来の自然ではないのか?という、前々からの僕自身が思っていた素朴な疑問に対する回答があり、疑問氷解で大変有意義な一冊だった。環境問題についての啓発資料には、「そもそもなぜ」ということが書かれていないものが多く、本当に理解して作られているものが少ないような気がする中、この本はとてもわかりやすく書かれていて良かった。環境問題や生態系についての最初の一冊として良い本だと思う。

生物多様性」とは何だろうか。この本で大きく生物多様性とは三つの分類があると説明がある。

  • 遺伝子の多様性
  • 種の多様性
  • 生態系の多様性

人間も生物であり、生態系の中で生きており、いろいろなメリットを受け取りながら生きている。食べ物はもちろんのこと、医薬品だったり、美しい景観などだ。今日のニュースにも、「深海生物に木くずの分解酵素があることがわかって、排気される木くずや紙などからバイオエタノールが簡単に作れるかもしれない」とあった。※リンク 生態系が多様なことは、人間にも多大なメリットがある。
この本の中では、生物多様性の評価が高い方が、様々なリスクが少なく、そして人間にとってメリットのあることであるということが丁寧に説明されていく。そして、このメリットは長い長い時間の中で蓄積された、貴重な遺産であり、壊すのは簡単だが、容易には戻らないものである。

本書の題名に「クワガタムシ」とあるけれど、他にも、ハチ、ミジンコ、ダニ、カエルの話が出てくる。それぞれに多様な生態系があり、それが少し変化すると、思わぬところで影響が強く出てしまって…、という話が紹介されている。一つ一つ紹介はできないので読んで欲しい。

一例を一つだけ紹介する。
マングースは毒蛇も怖がらずに打ち勝ち、食べてしまうことがわかったので、沖縄の毒蛇ハブを退治するためにマングースを連れてきた。ところが、マングースは昼に活動する動物で、ハブは夜に活動する動物だったので、活動時間が重ならず、装具する確率がとても少ない。マングースはわざわざ毒蛇のハブを狩って食べることはなく、他の動物を食べ、貴重な生態系が壊滅状態に陥る危機があったという。
外来種が入ってくると、生態系のバランスが崩れて元に戻すことができなくなるという例。

このほかにも、

  • バラスト水
  • クワガタムシの輸入をしたら…。
  • トマトの受粉のためにハチを輸入したら…。
  • 有害な虫だけを殺す農薬を使ったら、別なところで影響が…

などが興味深かった。「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、「え!、そんなところに影響が!?」という感想をもつエピソードが多数あっておもしろかった。バラスト水という言葉も初めて知った。